朝日新聞より。

動物工場製品、米で承認 組み換えヤギで血液凝固防止剤

2009年2月9日12時30分

【ワシントン=勝田敏彦】米食品医薬品局(FDA)は6日、ヒトの遺伝子を組み込んだ「遺伝子組み換えヤギ」の乳から作った血液凝固防止剤を承認したと発表した。組み換え技術を使って有用物質を動物に大量に作らせる「動物工場」の開発は各国で行われているが、FDAが組み換え動物を使った製品を承認したのは初めて。

 この薬はアトリンといい、GTCバイオセラピューティックス社(マサチューセッツ州)などが開発した。

 ヒトには、血液を固まりにくくする働きがあるアンチトロンビン(AT)と呼ばれるたんぱく質がある。このたんぱく質の設計図に当たる遺伝子を、ヤギの受精卵に組み込んだ。ヤギ乳に含まれるたんぱく質の遺伝子のところに組み込まれた受精卵を使うと、生まれたヤギは設計図に従いヒトATを作る。組み換えヤギの乳の中にはヒトATが高い濃度で含まれ、これを集めて精製し、薬にした。

 この薬は先天的にATができない重い病気のため、手術や出産時に肺血栓などが起きやすい患者の治療に使う。

 FDAは昨年9月、動物工場や食用を想定した遺伝子組み換え動物の産業利用に道を開く指針案を公表。GTC社のこの薬は、欧米とカナダで臨床試験が行われ、欧州ですでに承認されていた。米国では、今年1月の指針の最終決定を受けて承認された。GTC社は「今年4月以降に出荷する」としている。

 FDA指針では、人体や環境への安全性の証明などが生産者に義務づけられるが、環境団体などからは懸念の声も上がっていた。

 組み換え技術はすでにトウモロコシや大豆といった作物では実用化されている。

 医薬品としては、大腸菌やハムスターの細胞に人間の血液成分などを作らせて薬にした血液凝固剤や糖尿病薬などが実用化されている。だが、菌の培養などが必要でコストが高い。動物工場なら医薬品の大量生産が見込め、コストダウンにつながるという。日本でも研究が進んでいる。

 動物工場を増やし、生産力を高めるには最終的には体細胞クローン技術を使うと考えられている。

 ソースはこちらFDA)。

 アトリン(ATryn)の成分はヒト・アンチトロンビン(Antithrombin III)、稀な先天性疾患先天性アンチトロンビン欠損症(HD:hereditary antithrombin deficiency)の患者の、出産や手術の際の血栓の防止に使われる。患者数が少なくその上、出産や手術の際にしか使われないことから、医薬品の生産にあたってのスケールメリットを生かすことができない。いわゆるオーファンドラッグである。動物工場であれば、生産コストを引き下げられると期待される。

 しかし、この記事の「組み換え技術はすでにトウモロコシや大豆といった作物では実用化されている。
」というコメントは何なんだろう。遺伝子組換え技術を使用した医薬品はそれほど珍しくはない。たとえば、ヒト成長ホルモン、B型肝炎の予防ワクチン、C型肝炎の治療薬であるインターフェロン、糖尿病で使われるインスリン、近く承認見込みの日本脳炎ワクチンに、新型インフルエンザ・ワクチンetc.。B型肝炎のワクチンなど20年以上前から実用化されている。医薬品製造に良く使われる普及技術の説明に、何で作物を引合いに出さなければならないのか記事の意図がわからない。

 医薬品の許認可は、安全性、効能、安定性は勿論、副作用のリスクを上回ることが見込まれるベネフィットがなくてはならない。その際に、先行して実用化されている医薬品が比較の基準となる訳だが、オーファンドラッグの場合は先行する医薬品が存在しないケースさえあるだろう。そういう意味では、難病の治療薬という切り口は、遺伝子組換え動物や遺伝子組換え植物を利用した、新しい製造プロセスで生産される医薬品にとっては良い開発ターゲットかもしれない。

 ちなみに、ヤギの乳からタンパク質を精製することのメリットは、記事にあるように「だが、菌の培養などが必要でコストが高い。動物工場なら医薬品の大量生産が見込め、コストダウンにつながるという。」というだけではない。大腸菌は一部の株には病原性がある。そうでない株であっても、菌体の成分が人体に入ると悪影響が及ぶ場合がある。それに対してヤギの乳は、それ自体が食品であり成分事態の安全性は高い。

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