ヒトの介入研究では、飽和脂肪酸を含む食事と同様に、トランス脂肪酸を含む食事の摂取は、血中LDL コレステロールを増加させ、その影響は直線的な用量反応関係であることが示された。トランス脂肪酸の高摂取は、虚血性心疾患のリスクを増大させる可能性がある、とのこと。(EFSAのレポートより)

消費者担当大臣がなんだか、がんばっておいでの様子。


トランス脂肪酸、含有量表示検討へ…消費者相

 

マーガリンなどに含まれ、大量に摂取すると心臓疾患のリスクを高めると言われるトランス脂肪酸について、福島消費者相は24日、閣議後の記者会見で「含有量の表示を食品の成分表示で義務づけるよう、消費者庁で検討する」と述べた。
 トランス脂肪酸は、悪玉コレステロールを増加させる一方で、善玉コレステロールを減少させることから、欧米などでは含有量が規制されており、「国内でも規制すべきだ」という声が消費者団体などから上がっていた。福島消費者相は「日本人の食生活では直ちに影響はないと言われているが、啓発のためにも表示する方向で業界からも意見を聞いていきたい」とした。

(2009年11月24日11時41分  読売新聞)

トランス脂肪酸の食品としてのリスク評価は食品安全委員会が行っており、既に評価結果を公表しています(PDF)。これによると、

今回の食品安全委員会の調査結果から、日本人一日当たりのトランス脂肪酸摂取量は、食品群別摂取量から推計(積み上げ方式)すると平均0.7g(摂取エネルギー換算では約0.3%)で、食用加工油脂の生産量から推計すると平均1.3g(同約0.6%)でした。これらの値は、総エネルギー摂取量の1%未満となりました。ただし、これらの推計は、国民健康・栄養調査の平均値を使用しているため、個人のばらつきを把握することは困難です。脂肪の多い菓子類や食品の食べ過ぎなど偏った食事をしている場合では平均値を大きく上回る摂取量となる可能性はありますが、現時点では、その程度について予断できません。
 したがって、消費者の健康保護の観点から、今後とも、日本人(又は日本での)の摂取量や各摂取レベルにおける健康への影響等に関する国内外の新たな知見を蓄積していくことが必要であると考えられます。

平均的な食事を取ってる限り特段のリスクは無いけれども、取りすぎると油断できないよ、とのことで、福島大臣の認識とそう違いはない模様。

しかし、”啓発のためにも表示する方向”というのはどうなんだろう?食品表示の法的根拠はJAS法と食品衛生法。前者は消費者の選択の自由のための表示、後者は健康の保護に関わる表示を規定している(わかりやすい解説はこちら)。なので、啓発っていうのはどちらなんだろうか。

食品安全委員会では、知見の集積は必要としつつも、健康の保護という観点では特に問題視していないので、食品衛生法を根拠にするのは難しいように思う。

さてそこで、日本人の虚血性心疾患による死亡率に関する統計を見ると、 北畠顕ほか「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン」2006年改訂版によれば、1997-2003の間、”旧ソビエト連邦の構成国ならびに東欧・北欧の死亡率が上位を占め,ついで西欧・北米の先進諸国が続いている.これに対し日本の死亡率は先進国の中で最も低く,東欧・北欧の1/8〜1/10,西欧・北米の1/5 に過ぎない.”とある。

つまり、これらの報告から言えることは、

  • 日本人一日当たりのトランス脂肪酸摂取量は、米国の1/4-1/8、ギリシャと同等か1/2程度に過ぎない。
  • 日本人の虚血性心疾患による死亡リスクは先進国中最低水準で西欧、北米の1/5程度。

ということであって、科学的見地からは、食品中のトランス脂肪酸に対して何らかの対策を執っても平均的な国民の健康の維持向上に特段の効果が見込める状況にはない、と言って良いだろう。

# ここまで書いて、以前FoodScienceに国立医薬品食品衛生研究所の畝山さんが似たような話を書いていたことを思い出した。こちら

私、狭心症持ちです。つまり、冠動脈で動脈硬化がおこって心筋への血液の循環が悪くなって治療を受けています。ちなみに、牛肉はあまり食べません。マーガリンは滅多に食べません。デニッシュのようなパンもほとん食べないので、ショートニングも口にしません。

ちなみに、虚血性心疾患の要因としては、 北畠顕ほか「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン」2006年改訂版の”6.精神保健”の項にによれば、

 健康に影響を及ぼすストレス要因としては,仕事の負荷,責任などの仕事の要求度,仕事を行なう上での裁量度や自己能力の発揮などの仕事のコントロール,および職場の人間関係としての上司,同僚の社会的支援がある.
 特に仕事の要求度が高く,仕事のコントロールが低い職場で精神的緊張度が高く,健康問題が生じやすい.さらに,職場での上司・同僚の支援が低いことがもっとも問題を生じやすい.

(略)仕事の要求度が高く,仕事のコントロールが低い高ストレイン群での虚血性心疾患の相対危険度は1.5〜5 倍である.

あ・・・、これはまずいなぁ。ステント内の血管内皮が再生するまでにあと7ヶ月くらいかかるはずだし。

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