以前試供品をもらって放ってあったPCR精製キット "MSB Spin PCRapace" を使ってみた。よくあるPCR精製キットは、

  1. PCR反応液を結合バッファーで希釈し、
  2. 遠心や減圧濾過でスピンカラム内のメンブレンに吸着させ、
  3. 洗浄液で洗浄し(Qiagenは1回+カラのカラムで遠心、Monofasは1回のみ)
  4. 溶出バッファーでメンブレンを浸潤させ、遠心でDNA溶液を回収する

という4ステップを行う。回収率はフラグメントサイズにもよるが、2-3 kbpの断片だと40%以下になることもある。
そのくらいの大きさのDNA断片だと、プライマーの除去とバッファーの交換・濃縮だけで良ければ、PEG沈の方が収率は良いくらいだ。

"MSB Spin PCRapace"は、驚いたことに精製ステップが3段階しかない。

  1. PCR反応液を結合バッファーで希釈し、
  2. 遠心や減圧濾過でスピンカラム内のメンブレンに吸着させ、
  3. 溶出バッファーでメンブレンを浸潤させ、遠心でDNA溶液を回収する

 つまり、洗浄液で洗うステップがないので操作が簡便で、ピペットのチップの消費も少なくて済む。

 結合バッファーの組成に秘密があるらしいのだが、そのあたりはあまり関心がないので置いておいて、操作が簡便なのに加えて、回収率が非常に高い点が優れている点は良い。
 メーカーカタログで85-90%の回収率をうたうキットは多いが、私が使ってきたキット(BIO101のGeneClean, Qiagen のQIAquick, Minelute, 京都モノテックのMonoFas,日本ジェネティクスのNucleoSpinなど)のうち本当に80%以上回収できたものは、これくらいだ。また、扱えるDNA断片長も80 bp- 30 kbpと、QIAquickよりも幅広い。QiagenのMineliteは、がんばれば5 uL位のボリュームの溶液にDNAを回収できる点は優れているのだが、扱えるDNA断片のサイズが4 kbpまでなのでlong PCR産物の精製に使うには厳しい。MonoFasは35 kbpまでいけるらしいが、経験上、回収率はあまり期待できない(悪くすると30%くらい)。"MSB Spin PCRapace"の回収量は溶出用バッファーは最低10 uL以上使えとあるので、溶出ボリュームは大体Mineluteと同等だろう。

 まだ、試供品で3回くらいしか試していないが、製品を購入してもう少し詳細をみてみたい。一応、制限酵素処理後の精製にも使えるとは書いてあるが、高塩濃度のカオトロピック塩は使っていないらしいので、酵素の種類によっては失活しない可能性がある。PCR産物の精製専用にするか、熱で失活することがわかっている酵素との組合せで使った方が無難だろう。

 ちなみに、国内販売は和光純薬。定価ベースで250本で\42,000 (\168/1本)。MonoFasは250本で\44,000。
 QIAquickは250本で\56,000 (\224/1本)、Mineluteは250本で\60,000(\240/1本)なので、価格的にもお得かもしれない(実売価格はどうかわかりません)。

# なお、この製品情報は一般に広く公開されているものであり、職務上知り得た秘密には該当しません。

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