いやー、時代の変化を感じます。

 職場のメールアドレスにとある雑誌がPubMedにインデックスされたよ、と言うメールが出版社から送られてきたのですが、

Journal of Visualized Experiments (JoVE) is the first video journal for biological research accepted in
PubMed.

 ・・・だそうです。ビデオ・ジャーナル。研究発表のためのYouTubeみたいなもんですな (Natureでは'YouTube for test tube'なんてオヤジギャグ並みに洒落てますが)。YouTubeとは違って、科学雑誌を標榜するからには掲載するのに内容が適当かどうか、まず査読(?)があるのでしょうね。

# 投稿規約は見つけられませんでした。

 2004年、PLoS biologyにPPAR deltaの発現調節で持久走が得意になったマウスの論文動画が掲載されていたのでびっくりしたものですが、もう全編動画の研究論文(?)が出現する時代に突入していたのですね。
 学会発表でもパワーポイントに動画を仕込むのもそれほど珍しくはない状況になりつつありますので自然な流れなのでしょう。

 肝心のビデオ論文はというと、実験プロトコル関係が多いようです。 PDFにしてしまうと実に味気ないけれども、実験操作を見るとよく分かる、百聞は一見にしかずという感じのものには向いています。研究者が自分で喋ってたりするので、結構ルックスが大事だったりして・・・でも、研究者の外見がイケていないと損するというのもなんか嫌だなぁ。

 また、研究者でない一般の方々に実験の雰囲気を味わって戴くには良いかも知れません。実際の実験の有様は動画よりももっと時間がかかるものなので、実際の料理と料理番組くらいの違いはありますが。

# 「2時間半PCRします」、「30分間電気泳動します」、「ゲルを30分染色、30分脱色するとこんな風になります」というのをリアルタイムで動画にできるわけもなく・・・。

 研究論文では、文章で伝えるよりは、一つのグラフや顕微鏡写真の方が雄弁な場合が多々あります。しかし、グラフや写真は情報量は多いのですが、受け手の側のリテラシーもそれなりに要求します。例えば、



  • 棒グラフのヒゲの意味は何?(エラーバー)


  • 免疫電子顕微鏡写真の黒いポツポツは何?(金コロイド)


  • バンドとか言っている黒い線の意味は何?(サザン、ノザン、ウエスタンetc.)


  • ヒートマップとか言っているけど赤と緑のグラディエーションの意味は何?(アレイのデータ)


  • 植物の組織を半分に割ってる写真で青く染まってるのはなぜ?(GUS活性染色)

などなど。データの表現方法や実験手法についての基本的な了解が成り立つだけの知識がなければ、論文を読んでも当然理解できません。
 しかし、逆にデータの見方がわかれば、これほど有効な情報伝達手段も滅多にありません。

 動画に関しては、まだ標準的な表現方法も決められていないし、今後とも何でもありのような気がしますが、言語表現を超えたデータの開示方法は、これからまだまだ発達していくのでしょう。自ら”ビジュアル系研究者”になる気はありませんが、この分野の将来が楽しみです。

# 時折思うのですが、新聞記事にグラフが登場することはあっても、小説にグラフが登場することはないなぁ、とか、法律の文章には表はあってもグラフは無いなぁとか。科学論文とは逆に、あえて情報を減らすことで多義的な解釈を成り立たせない様にしている文章表現の分野では、伝えるために表現方法に工夫を凝らすということは今後とも無いのだろうな。

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