公務員の政治的中立性は憲法で規定されている。

第十五条
 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

○2
 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

さて、読売新聞の記事であるが、

「民主に賛成の官僚以外クビ」鳩山氏、政権奪取後の構想

 民主党鳩山幹事長は9日、大阪市で開かれた関西経済同友会の会合で講演し、民主党政権での政府人事について、「(各省庁の)局長クラス以上に辞表を提出してもらい、民主党が考えている政策を遂行してくれるかどうか確かめたい。それくらい大胆なことをやらないと、官僚の手のひらに乗ってしまう」と述べた。

 民主党政権が実現した場合、中央省庁の局長級以上の幹部にいったん辞表を提出させ、民主党の方針に賛成する官僚のみを引き続き採用する考えを示したものだ。

 幹部公務員の政治任用制の拡大は民主党の基本政策の一つで、2007年参院選公約にも盛り込まれている。03年に当時の菅代表がまとめた政権構造改革案では「各省庁の局長級以上で新内閣の基本方針に賛同しない官僚には辞表を求める」と明記している。

(2009年2月9日20時40分  読売新聞)
非常に刺激的な見出しで、まるで民主党中国共産党を理想としているような印象さえ与える。しかし、民主党の掲げる官僚の政治任用に関しては、民主党の松井孝治氏の言うような

 将来的には国家公務員法を改正して、各省庁の局長級以上は身分保障のない特別職にする。局長級は、いったん辞表を書き、退職金も受け取る。そこから先はオープンな官民競争だ。某局長が空けば、そこに一番優れた人を認めていく。

ということであれば、根拠法も整備されており、手続き的にも問題ないだろう。ただし、このパラグラフに続く

 ただ、現行法では出来ない。今やろうと思っているのは、局長級を呼び、マニフェストに賛成してもらえない場合、人事異動を考える。不当と訴えられるかもしれないが、場合によっては法律論争すればいい。我々が政権を取る時は、民意はマニフェストを支持してくれたということだから、政と官の役割分担から、当然従っていただくべきものと思っている。

これはいけない。

まっとうな官僚であれば、政党のマニフェストに対する賛否で進退を決めろといわれれば反発するだろう。国民の代表である国会で決めた法律に従うのは全体の奉仕者として当然のことだが、特定政党のマニフェストへの宣誓となると話は違ってくる。なぜならば、国家公務員は採用に当たって国家公務員法第97条に基づいた職員の服務の宣誓に関する政令に従って「服務の宣誓」を行なうからだ。その宣誓書にはこうある。

     宣誓書

私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。

    年月日
                     氏名

# 個人的には、これじゃぁ役人にはなれても研究者は勤まらないだろうなぁ・・・と思うところはある。研究者や大学の教官は、今や独法職員であって公務員ではないが、まず研究対象に対する飽くなき興味をまず第一義に仕事の原動力とするような、そういう特殊な分野だ。これはさておくとして・・・

公務員は「不偏不党かつ公正」でなくてはいけない。特定政党のマニフェストに対する賛否に基づいて職務にあたると言う仕組みにはなっていない。それを承知で現行法令のまま、辞表をとるとか、人事異動を考えるというのは筋が通らない。

議会の仕事としては、民主党が政権与党になったらまず、国家公務員法を”憲法と齟齬がないように”改正することだ。その上で、法律に従って高級官僚を政治任用するのでなければ、国会が国民の信を失いかねない。政治任用は良いが、それをやりたければきちんと立法措置をするべきだ。それが立法府の仕事だ。

上で引用した松井氏の発言は2005年時点のものなので、それ以降民主党でも公務員制度に関する議論が進められておることだろう。鳩山氏の発言が、仮にいまだに4年前と同じ前提で「局長クラス以上に辞表を提出してもらい、民主党が考えている政策を遂行してくれるかどうか確かめたい。」と言っているのであれば失望を禁じえない。この4年間、どんな検討をしてきたのか、この発言の前提を示すことが重要だ。

上記の記事では、その発言の前提が見えない。

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