夕食後、NHKの”ためしてガッテン”を見ていたら、小松菜を冷凍すると、解凍時にはおひたし同様になる、と言っていた。

加熱調理には、色々な役割がある。植物の細胞壁の結合を緩めて柔らかくすること、細胞膜を破壊すること、タンパク質を変性させて酵素を失活させたり、消化しやすくすること。その他、非常に重要な役割として、加熱殺菌がある。

白菜やキャベツのような結球野菜の内部はほぼ無菌で、農薬の残留もほとんどない(移行型殺虫剤は植物が代謝し切れない場合に限って残る可能性はある。しかし、出荷時の残留農薬基準を満たしているはずである)。従って、これらを解凍直後に過熱せずに食べても衛生上の問題はないと考えられる。

しかし、小松菜は結球野菜ではない。株の根本は地面に近いため、泥や砂が挟まっていることが普通にある。よく洗っても、形状が複雑な野菜では洗浄による除菌の効果はほとんど期待できない(参考文献)。従って、ホームフリージングした冷凍野菜を加熱しないで食べる場合には、もし細菌による汚染があれば食中毒に繋がる恐れがある。

ちなみに、牛糞堆肥には大腸菌群や病原性大腸菌が普通に見られるだろうし、鶏糞中にはサルモネラ菌がよくいるだろう。土壌中には、セレウス菌も居る。これらは環境中に普通に見られる病原性微生物であり、細菌性の食中毒の原因にもなっている。堆肥をふんだんに使う有機野菜が全て汚いとまでは言わないが、ある程度の頻度で汚染されていることは覚悟しておくべきだ。

なお、商品として売られている冷凍野菜については食品衛生法に基づき、細菌汚染に関する規格基準が定められている(食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号))ので、生食を前提に冷凍加工されている製品については、基準が満たされていれば安全であると考えてよい。

以前、これまたNHKで、ニューヨークで何でもかんでも非加熱で食べる"Raw Food"なるものが流行っているというニュースを流していた。しかし、人間のアミラーゼは非加熱のデンプンを消化できないし、タンパク質を加熱しなければ消化酵素の効きも良くない。食品中のタンパク質が十分に分解できなければ食べても栄養にならない。単に流行っているという情報を垂れ流すのではなく、そこには安全上のリスクがあることもきちんと伝えるべきだ。

私は、生でも食べられることがよく分かっている食品以外は生で食べたいとは思わない。生の穀類は消化できないし、ものによっては他の食品の消化を妨げるアミラーゼ・インヒビターも入っている。生の豆は、白インゲンに限らず、レクチンやプロテアーゼ・インヒビターが含まれているのが普通だ。生ひじきには砒素が多く含まれているし、生のワラビには発がん物質が含まれている。どれも、調理や加工によってようやく食べられるようになっているものなのに、何だってわざわざ生で食べたがるのだろう。

餌を生で食べる野生の動物にも、ヒトよりも長く生きられるものはほとんど居ないというのに。

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