昨日、"受託DNAシーケンスも価格破壊"というエントリーで、

これは、ダイターミネーターの最後の一花なのだろうか? 今の蛍光シーケンサー用の試薬は製造を止めて売り切れ御免か? 近く、従来型のシーケンサーでワンパス\500といわず、次世代シーケンサーで、環状のテンプレートならカバレッジ80Xで\500という時代が来るのだろうか?

と書いたのですが、どうも本当にそんなことになりそうです。
ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社から"GS junior"という新型のDNAシーケンサーが発表されました(ホームページはこちら。プレスリリースはこちら)。

デスクトップに乗るサイズ(HWD = 40 x 40 x 60 cm)で、1ラン=10時間あたり約4000万塩基(40,000 kbp = 40 Mbp = 4.0 x 107 bp)解析できて、平均読み取り長さは400 bp(モードは500 bp)、お値段は、

“GS FLX”に比べ、本体価格(約1/5)およびランニングコスト(約1/10)を低減

  参考: GS FLX  7,500万円(税別)

なので、本体価格で1,500-2,000万円くらいになりそう・・・つまり、ABI 3130xlの価格帯にほぼ匹敵します。これで1回の運転で大腸菌ゲノムが9Xくらい読めてしまいます。

驚いたなぁ。

プラスミドのシーケンスの確認には勿体無い位の性能ですが、複数サンプルの処理ができるか、読み取り時間を短縮できれば、トランスクリプトーム解析の分野ではマイクロアレイを駆逐する可能性があります。GS juniorは454 FLXと同じ反応系なので、発現解析用にはすこしばかり読み取れる長さが長いため、この用途にはIlluminaやSOLliDの方が向いているかもしれません(cDNAをコンカテマーにしても読み取り時間は変わらないようなので)。

おそらく、数年以内に他社もこの分野に参入するでしょうから、従来型のキャピラリーシーケンサーが"STR解析専用機"になってしまう時代も近いでしょう。

# いずれ、デスクトップ・シーケンサーでパーソナルゲノムを解析する日は来るのだろうか?それとも、臨床検査センターのような受託解析が一般化するのだろうか。さてさて。

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受託DNAシーケンスも、ちょっと前まで1パス\1,000位が相場だったが昨年から\700位になっていた。

で、今日教えてもらったのが、インビトロジェンのサービスで96穴1プレートでシーケンス反応からの受託で\46,000、サンプルあたり約\479(ただしキャンペーン価格)。インビトロジェンはダイターミネーターシーケンサーマトリックスの供給元であるABIを吸収したので、サービスで利益を出せば良いということだろうか。

日本の試薬の価格は国際比較では異常に高いのだが、受託シーケンスの価格がこの水準まで下がると、研究所で数千万円する中スループットのDNAシーケンサーを維持しておく必要性が低くなってしまう。

次世代シーケンサーはあまりに能力が高いので、どの程度普及するのか私は疑問に思っている。受託シーケンスを支える道具としては有効なのだが、普通の研究所で求められる要求性能を軽く超えてしまうので、大抵は手に余るのだ。しかも、シーケンサーが吐き出すデータ量は膨大でストレージ・ファームが要るくらいだし、アセンブルにはちょっとしたスパコンが要る。

それに対して、プラスミドを構築した際の確認作業等に使われる3100xl位のスループットシーケンサーは日常の業務ではまだまだ必要な装置なのだが、最近メーカーから更新機種が出ないなぁ、と思っていた。しかし、ここまで受託シーケンスの価格破壊がここまで進むと、1シーケンスの単価が普通に調達する際のシーケンス試薬+精製キットの代金とあまり変わらなくなるので、シーケンサー自体を維持する必要がなくなる。消耗品のキャピラリー、レーザー、バッファー、ポリマーなどのランニング・コスト+維持管理の人件費も勘案すれば、もう受託の方が安いかもしれない。

これは、ダイターミネーターの最後の一花なのだろうか? 今の蛍光シーケンサー用の試薬は製造を止めて売り切れ御免か? 近く、従来型のシーケンサーでワンパス\500といわず、次世代シーケンサーで、環状のテンプレートならカバレッジ80Xで\500という時代が来るのだろうか? ・・・等々いろいろ邪推してしまう。

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Science magazinのニュースより。

Acidic Oceans May Be a Boon for Some Marine Dwellers

By DeLene Beeland
ScienceNOW Daily News
1 December 2009

最近、海水が酸性化するとサンゴや貝の中には、骨格や殻を上手く作れなくなるということが報告されている。サンゴや貝殻の主な成分は炭酸カルシウムなのだから、海水中のCO2濃度が上がると、かえって原材料の調達が楽になって骨格や殻が分厚くなるのかと思ったらそうでもなかったらしい。

一方、地球の歴史的なスケールでは大気中のCO2濃度が現代の10倍くらい高かった時期があった。約5億4500万年前から約5億0500万年前までのカンブリア紀のことである(*)。海水中のCO2濃度もさぞ高かっただろうに、生物相は非常に豊かだった時代だ(例えば、アンモナイト三葉虫)。

今回のニュースは、ロブスターやカニのような甲殻類の中には水中のCO2濃度を10倍くらい上げると外骨格が分厚くなるものが居るというもの。捕食者に対する防御能力が上がり、同時にハサミが硬くなるので餌をとるのにも有利だ。外骨格も炭酸カルシウムでできているのだが、サンゴや貝との反応の違いは何なのだろう。CO2濃度に対するカルシウムポンプの反応の違いなのだろうか。

# アンモナイト三葉虫の絶滅は、これと逆の現象が原因だったりして。

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なんだかなぁ。

行政刷新会議への情報提供の職員を保護

 政府は1日の閣議で、行政刷新会議が進める職員らから無駄や行政内部の密約などの情報を募る取り組みに関し、情報提供を理由に国家公務員を降格や懲戒といった不利益な取り扱いをしない方針を決定した。独立行政法人や地方公務員に関しても同様の扱いを要請する。

 鳩山由紀夫首相は閣議後の閣僚懇談会で「これまでの政権で結ばれた密約や覚書などを明らかにし、不透明な行政の在り方を変革するための情報提供は非常に重要だ」と指摘した。

 行政刷新会議は11月30日、「ハトミミ」と名付けたインターネットサイトなどを通じ国民や職員から意見を募る方針を発表。職員には(1)国の行政に関し違法、不公正、不合理な事案の指摘(2)府省間の覚書など不透明な取り決め−などの情報を期待している。(共同)

 [2009年12月1日12時41分]

国の予算の何パーセントが”無駄”、”不合理”なのかわかりませんが、無駄の削減で財政を浮上させるには限界があります。予算の50%が借金でまかなわれている以上、その水準まで支出を絞り込まない限りプライマリーバランスは0にならないのは自明です。

支出を絞り込む方法は、無駄の削減かこれまで必要とされてきたサービスのカットしかありません。”無駄”=”政策実現の効率が低い”であるとしても、事業が行われているうちは関連業界にお金が流れます。しかし、事業が中止されるとたちどころに関連分野の産業で雇用に影響します。・・・ということが分かっている「国家公務員や独立行政法人職員など」は、こういう内部告発はしにくいのではないでしょうか。

むしろ密告奨励みたいで気分が暗くなります。たとえ、架空の通報でも関係者と目されれば調査のために拘束されるだろうし、通報者保護の立場から誰が通報したのか関係者には明かされないだろうし。そういう嫌がらせの道具(あるいは、合法的な偽計業務妨害)に使われるのではないかと危惧されます。

ともあれ、”不合理な事案”はあるなぁ。古い話では、過去の他省庁の例で単年度でできるはずのない毒性試験が、単年度予算で実施されていたようにしか見えないケースとか。

会計法の都合なのか、無理矢理単年度で事業を執行しなければならなかった頃のお話ですが。

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GPUコンピューティングの時代がやってくる・・・か?

長崎大学の濱田先生がゴードン・ベル賞受賞ということで、ニュースになっています。丁度、スパコン事業仕分けが行なわれた時期なので注目を集めているようです。

安価スパコン:「事業仕分け」どこ吹く風 3800万円で完成 長崎大助教ゴードン・ベル賞 

 東京・秋葉原でも売っている安価な材料を使ってスーパーコンピュータースパコン)を製作、演算速度日本一を達成した長崎大学の浜田(剛つよし)
助教(35)らが、米国電気電子学会の「ゴードン・ベル賞」を受賞した。政府の「事業仕分け」で次世代スパコンの事実上凍結方針が物議を醸しているが、受
賞は安い予算でもスパコンを作れることを示した形で、議論に一石を投じそうだ。

 同賞は、コンピューターについて世界で最も優れた性能を記録した研究者に与えられ「スパコンノーベル賞」とも呼ばれる。浜田助教は、横田理央・
ブリストル大研究員、似鳥(にたどり)啓吾・理化学研究所特別研究員との共同研究で受賞。日本の研究機関の受賞は06年の理化学研究所以来3年ぶりという快挙だ。

 浜田助教らは「スパコンは高額をかけて構築するのが主流。全く逆の発想で挑戦しよう」と、ゲーム機などに使われ、秋葉原の電気街でも売られている、コンピューターグラフィックス向け中央演算処理装置(GPU)を組み合わせたスパコン製作に挑戦した。

 「何度もあきらめかけた」というが、3年かけてGPU380基を並列に作動させることに成功。メーカーからの購入分だけでは足りず、実際に秋葉原でGPUを調達した。開発費は約3800万円。一般的には10億〜100億円ほどかかるというから、破格の安さだ。そしてこのスパコンで、毎秒158兆回
の計算ができる「演算速度日本一」を達成した。

 26日の記者会見で事業仕分けについて問われた浜田助教は「計算機資源は科学技術の生命線。スパコンをたくさん持っているかどうかは国力にもつながる」と指摘。一方「高額をかける現在のやり方がいいとは言えない。このスパコンなら、同じ金額で10〜100倍の計算機資源を得られる」と胸を張った。
【錦織祐一】

ですが、「ゴードン・ベル賞」にも色々な部門がある様子。濱田先生の受賞された部門は「コストパフォーマンス部門」なので、事業仕分けで採り上げられたような絶対性能の追求と同一視してはいけません。

私はスパコンに詳しいわけではありませんが、日ごろパソコンをいじって、なおかつスパコンを計算機資源として利用しているユーザー(Blastなどホモロジーサーチをする人なら誰でもですが)としては、昨今の議論を見ていると奇妙なすれ違いを感じます。

計算機科学の発展には、絶対性能の追求もコストパフォーマンスの追及も大切なのだということで、ともに文部科学省のファンドで、理化学研究所と一緒にすすめめられてきた経緯があるようです。これを、皮肉と見る向きもあるでしょうが、絶対性能とコストパフォーマンスは必ずしも対立する概念ではなく、それぞれの研究成果がいずれは相互に波及しあうと考えるべきでしょう。それは車の両輪なんです。

しかし、3年かけて3800万円でGPUを買い集めなくてはいけなかったというのは結構悲しいものがあります。3年あると、GPUの性能は数倍に上がってしまいますし、同じ規格の製品であれば2年で半値になります。・・・とろとろしてると、すでに組み上げたシステムのGPUと同じ規格の製品が市場で手に入らないという目にあいますが、はしりの製品を買うと調達コストが倍になるという、難しい選択を強いられます。

つまり、2-3倍のコストをかければ1年で必要な数のGPUが調達できたでしょうが、それでは「コストパフォーマンス部門」では受賞できなかったかもしれないと・・・。予算が沢山付いて、さっさとスパコンが出来上がっていたら、かえって評価が高まらなかったかも・・・。

GPUコンピューティングは分岐計算が多いのは苦手といわれているように、分野を選ぶようです。かといって汎用機をスパコン化する「汎用京速計算機」のコストパフォーマンス自体にはちょっと首をかしげるものがあります。

”国策として自力でCPUを開発する能力を維持したい、これはコストではなく投資なのだ”というのなら、それも分からなくはありません。GPUコンピューティングにしてもTOP500に出てくるスパコンにしても、インテルAMDのようなアメリカの企業が開発したチップを使ったものがほとんどで、地球シミュレーターのSX-9のように単一CPUあたりの性能を追求した独自路線のマシンはあまりありません(中国のマシンも独自路線のようです)。そういう意味では、GPUコンピューティングといえどもNVIDIAのチップを使う限り、野依先生流に言えばアメリカへの隷属ということになってしまうでしょう。

いっそ、昨年スパコン世界一になっていたIBMのRoadrunnerで使われていたCellプロセッサ(ソニー東芝IBMの共同開発)のようなものを、「開発後はゲーム機や家電にでも入れて、ばんばん売っていいから。でも売り上げの0.5%は国に返してね」といって、メーカーに資金援助した方が良いかもしれません。CPUはスケールメリットが出ないと投資が回収できませんから、GPUコンピューティングのように最初から汎用品を使うのでなければ、新規開発するCPUを”沢山売って汎用品にする”という方法しかないでしょう。それなら、パソコン用やサーバー用のCPUよりも、携帯端末組込み用のCPUの方が沢山売れますのでスケールメリットが出ます。

# IBMのBlue geneは既に組込み用のPowerPC 440ベースの製品を使っている模様。

しかも、半導体の製造技術は3年もあれば回路の集積度が4倍に上がり、逆に消費電力が下がります。CPUの設計上の耐用年数を5年と考えると、汎用品のCPUの差し替えでメンテナンスできるのであれば運用コストも下げられ、装置の寿命も延ばせます。濱田先生も計算機の台数を問題にされていますが、安くなって台数を沢山作れれば計算機資源としてはそれだけ豊になります(1台のスパコン上で処理できる計算の数には制限がありますから、これを無駄と言ってはいけません)。

どなたか、ルネサスに資金提供して携帯端末用SuperHシリーズのブラッシュアップをしてスパコンに転用するというプランを立てて見ませんかね?単一チップとしては必要以上に多機能ですが、相当省電力になるし。

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いやしくも”科学的”な推定であれば、誰が計算しても同じ結果が出る。朝日新聞より。

温室ガス25%削減影響、「民主応援する人」で再試算

2009年11月25日0時8分


 鳩山内閣は24日、地球温暖化対策を検討する副大臣級の会合を開き、温室効果ガス削減が経済に与える影響の試算について、専門家会合のメンバーを入れ替えて再試算する方針を決めた。小沢鋭仁環境相は「鳩山政権のやりたいことを本当に応援してくれる」メンバーを選ぶ考えを示したが、恣意(しい)的な対応だとの批判を招く可能性がある。


 再試算の方針は来週にも「地球温暖化問題に関する閣僚委員会」を開き、正式に決める。

 菅直人副総理兼国家戦略相の下に置かれた副大臣級の会合で24日、専門家7人と5研究機関でつくる「タスクフォース」(座長=植田和弘京大教授)
が、10月23日から進めていた試算結果の中間報告をした。試算は、温室効果ガスを2020年までに1990年比25%削減するという鳩山政権の目標が、
経済にどのような影響を与えるかを示すものだ。しかし、中間報告の内容は整理が必要だとして、この日は公表しなかった。

 会合後に記者会見した事務局長の小沢環境相は、中間報告について「我が党の政策をとり入れた形での分析になってない」と指摘。タスクフォースにつ
いて「今回の試算が最終の結果。(再試算を担当する)チームはかなり変わるんじゃないか」と述べ、メンバーを入れ替えて、地球温暖化対策税や国内排出量取引制度の導入など民主党が掲げる政策の効果や、技術革新の進展などを反映させた試算を新たにつくる考えを示した。

 タスクフォースは、前政権での試算を見直す目的で設置されたが、実際に試算を担当した研究機関は前政権と同じだった。タスクフォースで19日に示された中間報告案では、「90年比25%削減」の場合の家計負担について13万〜76.5万円と試算したが、前政権での試算(22万〜77万円)と差はあまりなかった。

12月7日から始まる国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)に間に合わせるため、鳩山政権は約1カ月で中間報告をまとめるようタスク
フォースに依頼。ただ、当初からタスクフォース内には「時間が足りない」と不満が漏れていた。鳩山政権の環境政策についても「分析には具体的な制度設計の情報が必要」などとして、試算には十分盛り込めなかった。(星野眞三雄、竹中和正)

お御籤を引いたら大凶だった。そこで、げん直しにもう一回引いたが、やっぱり凶だった。・・・ということで、大吉が出そうな神社におまいりして、もう一回お御籤を引くことにした、くらいに考えているのでしょうか。科学的な見地からの検討はそんなものではないはずです。

平均的な日本国民の科学に対する認識が、環境大臣のご発言のようなものであるとすれば、今後はもっと理科教育に力を入れるべきです(あるいは、過去には、ある世代の大人について理科教育に失敗した事実があったという事例なのかもしれません)。また、民主党の政策が計算の前提に反映されていないことが問題であるという認識であれば、再度計算させるにあたって、前提条件を改めれば良いだけなので、タスクフォースのメンバーを入れ替えるのであれば、その意義を説明する必要があります。

もし、”「鳩山政権のやりたいことを本当に応援してくれる」メンバーを選ぶ”ということがメンバー改選の本当の意図であれば、次のタスクフォースのメンバーは、政治的に中立ではないことが明らかで、これは言わば”筋金入りの御用学者”といわれても仕方ありません。卑しくもまっとうな研究者を自認する方であれば、このような委員の依頼は引き受けるべきではないと信じます。

かつて、中国や旧ソ連では、自然科学の学説が”政治的に正しい”と支持されたり、”ブルジョア的である”と批判された時代がありました。家計負担”77万円”という結論は、民主党目線では”自民党的である”から政治的に正しくないと言うことなんでしょうか。

政治的にどうであれ、科学は科学です。前提条件と解析の方法論が同じであれば、結論に変かわりは無いはずです。

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